2011年度国際法第1部試験短評――書いたあなたが悪いのか、教えた私が悪いのか
※試験問題は、各自、自分で確認のこと。詳細は、国際法第2部の初回で説明した通りですが、概要を採録しておきます。
今回の試験は、私自身が担当する久しぶりの国際法第1部であり、また、大量の受験者が見込まれ、採点の便宜も考えつつ、それほど凝った問題は出していないつもりである。しかし、全体としては予想を下回る出来となり、残念であった。
教科書があるから授業を受けていなくても大丈夫だと思って受験者が多くなっているのか(単位取得だけを考えるなら、その考えは、正しいとは言いにくいが誤りではない)、しかし、そうならきちんと教科書を読んで、かつ、理解して試験に臨んで欲しい。聞きかじっている単語や文章を並べるだけなら、いくら詳しく書いていても配点対象にならないことは釈迦に説法、東大生に受験指導なのだと思う(思っていた)のだが、やはり念を押しておきたい。設問にto the pointで答えること。
◆◆第1問
※関連する教材:教科書該当箇所:pp.7-8(一般), 93-95(管轄), 104-105(免除), 301-303(条約法),327-330(責任法)。百選、2、24、(56)。特に、責任法については補助資料も。
出題の意図:試験範囲の大部分を通覧できる視座に関する主題。国際法の基本的視座の提供の意図もある。
短評:仮に教科書持ち込みにしたら、こちらが望むように書いてくれたのか?ともう一度試験をやりたくなる回答が多かった。専門的には「階層化」の射程がどこまで及ぶのかという難しい論点もあるが(最も狭くは、教科書のpp.7-8にあるとおり)、採点段階としては、微妙なものは基本的には拾って配点している(微妙でないものは拾っていない)。
条約法に関しての記述が多く、それ自体は間違いではないが、他の分野との連続も見て欲しいところ。
◆◆第2問
※関連する教材:教科書pp.62-65、判例百選66−70、等。
出題の意図:簡単な事例問題を出そうと思い、マブロマティス・パレスタイン事件とノッテボーム事件を足したような単純な設定にした。凝りがなさ過ぎて、公にするのがはばかられるほどである。外交保護権行使の要件といった基本的内容を問うている。
短評:比較的よくできていた。Xと会社を分けて考えていたり複数の可能性を場合分けを展開しているなど、よく考えている答案も多く、試験・採点全体を通じて、私も比較的満足だった。
◆◆第3問A:条約の直接適用(直接適用可能性)
※関連する教材:教科書pp.386-388, 400-405。判例百選6−9、(48)、50、(51)
出題の意図:国際法と国内法の関係という大テーマの主要論点の一つを押さえておいて欲しかった。
短評:国際法と国内法の関係の一元論、二元論から大々的に始めるのが悪いとは言わないが、肝心の直接適用概念に行く前に息切れしている答案が目についた。この概念は確かに、難しい。しかし、教科書に明晰に記してある。試験ではここに書いている以上のことを求めていない(さらに言えば、それ以下でも満点をとれるように採点している)。また、変型方式/一般受容方式と間接適用(国際法適合解釈)/直接適用の混同が目立った。「条約の」とあるのに、わざわざ、慣習法について論じているものも散見された。
◆◆第3問B:カントと国際法
関連する教材:教材pp.17-18など。このほか補助資料
短評:まあ、試験に出ないと思っていたのか準備せずにいた人が多かったようで、こちらを選択する人はとても少なかった。教科書の該当ページ数は少ないが、授業では、補助資料もかなり配って、比較的詳しく解説したところ。過去のことをあまり気にしていない人(学生だけではない)も多いが、そういう人は現代のことも本当は知らない。細かいことを問うつもりはなく、また、そうしているわけでもないので、この程度は社会常識としても押さえておいて欲しい。選択した受験者の出来は、まあまあといったところ。
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なお、登録者数610名、答案提出者303名。(試験自体を受けた人数は、この数に放棄した者を含むので、ざっと340〜350名程度だったかと思う。)
すべての問題について、出題意図を完全に理解して、(ほぼ)完全に解答している答案は1通〜4通程度だけだった。不可は、答案提出者のうち1割5分程度である。再び(人によっては三度、あるいはそれ以上)試験を受けるチャンスがあることを喜びつつ、来年度以降、頑張って下さい。